「質問書方式授業」での生徒の質問集
2001年度 生物TA (2001年4月〜2002年3月)
鈴木健夫
以下は、2001年度生物TAの授業の一環として行った、質問書に生徒が書いてきた質問の総まとめです。生徒の素朴な質問をそのままリストアップしました。私のコメント(→の次に書かれているもの)もできるかぎりそのまま載せました。ただし、百科事典など他の資料から引用したものなどや図のあるものなどは、ここでは割愛しました。また、生徒の質問のうち、意味不明なものや内容として不十分なものや、授業の内容に即した質問でここに載せても理解しにくいものは、割愛しました。実際には、この2倍くらいの量の質問が出されて答えています。
2000年度は、質問を「書きたい」人だけ書くという形を取りましたが、2001年度は、プリントの提出点に加味するという形で、質問を書くことを得点化しました。そのため、質問の量が膨大になりました。
しかし、生徒達の質問は、本質をついているものが多く、こちらが考えさせられることが多いものです。私が「ドキッ」とした質問や、調べてみて自分自身勉強になった質問をピックアップしておきましたので、ぜひこれだけでもご覧下さい。
Q2-20:ミトコンドリアって虫ですか、それとも菌ですか?
Q2-48:核の中にある染色体って何色?
Q4-14:細胞の核は、どういう原理で染まっているのですか?
Q5-18:(人の染色体の数を数えるという演習をした後の質問)ヒトの染色体の数を何で数えなきゃいけないんですか?
Q9-9:精子って生物・無生物?
Q13-11:血液型占いや性格判断などは誰がどういう理由で考え出して、誰がどういう理由で必要とするのか?どういうふうに調べているのか?
Q14-7:お腹の中の子がダウン症ってわかったからって中絶するという人は、なんでだろう?
Q18-10:なぜ化石は石の中にできるんですか?
Q22-4:海に生きている生き物で陸にいて海に戻った生き物はクジラやイルカのほかにいるんですか?
Q22-5:今まで� �番長く生きた動物って何なんですか?
Q26-6:血管って何色か?
Q27-3:こんなに危険なタバコを最初に作った人は誰なんですか?
私のコメント(答)は、時間がない中で答えているものも多く、また私自身生物が専門でないので、いいかげんな答や不正確な答も多くあります。授業実践の一環として、ご覧下さい。あくまでも、この欄は、生徒の質問を紹介するのが主旨であり、その答を公開することが目的ではありません。その点を踏まえて、コメントをお読み下さい。なお、質問の番号は、授業で使っているプリントの番号を元にした整理番号です。あまり深い意味はありません。※印は上に「ピックアップ」した質問です。
「質問書方式授業」のやり方などについては、ここにまとめてありますので、ぜひご覧下さい。
Q2-7:細胞は元は一つの細胞から生まれるのに、なぜ違う働きをして違う形のものが生まれるのですか?
→これこそ、今でも世界中の生物学者が研究している最大の謎だ。核の中の染色体にある「遺伝子」にその設計図(命令)が書かれているが、どうしてそれがうまく細胞を違う形につくりかえるのか、完全にはわかっていない。
Q2-9:どうして人間と違って動物(植物?)は液胞があるのですか?僕は人間にあってもいいと思うんですけど。
Q2-10:液胞って何ですか/液胞はどういう働きをするんですか?
→液胞は、細胞内側から広げる働きをしている。中は液体だ。植物細胞は外側が細胞壁で囲まれているから、内側から押せばパンパンになって形が安定する。つまり、植物は細胞がしっかりとした形になるため� �液胞が必要だ。動物には細胞壁がないから、液胞があったら、細胞が破裂してしまう。
Q2-14:なぜ植物も動物と一緒の細胞を持っているのに、ちょっとちがうだけで変わってくるのですか?/なんで動物と植物の細胞は違うのですか? 動物と植物細胞はどうして同じではないのか?/動物細胞と植物細胞と違うのはなぜ?
→葉緑体があるかないか、というような違いは、ちょっとの違いではなく、本質的な違いだ。動物と植物が本質的に何が違うかということに関係している。この3つの質問は、そもそもどうしてこの地球に動物と植物という大きくわけて2種類の生物がいるのか、という話になってしまう。栄養の取り方で2つの違いができたと考えられる。
Q2-15:なぜ動物細胞はやわらかいのに、植物細胞は固いので すか?
Q2-16:植物細胞にだけ何で細胞壁があるのか?
→動物は骨格があるから細胞がやわらかくても身体の形を保つことができる。もちろん、クラゲのように身体が柔らかいままのもある。植物は動かないかわりにその場で体を支えなくては行けない。だから細胞壁を作って体の形を確保している。
Q2-20:ミトコンドリアって虫ですか、それとも菌ですか?※
→虫ではない。ミトコンドリアは大きな細胞に取り込まれた小さな細菌がそのまま共生(寄生)したものだ。そういう意味では、細胞に取り込まれる前は菌だったと言ってもいいかもしれない。
Q2-24:ミトコンドリアとは呼吸そのままの意味なんですか?/ミトコンドリアはどうやって呼吸を行っているのですか?
Q2-25:ミトコンドリアはどういう働き� �するのか/ミトコンドリアはどんなときにどんな働きをするのですか、詳しく知りたい。
→「ミトコンドリアが呼吸をする」と書いてしまうと、まるで小さな虫が息をしているみたいに思えるが、そうではない。内側のひだ状の「クリスタ」のすき間で化学変化を起こしてアデノシン二リン酸(ADP)という物質がアデノシン三リン酸(ATP)になる。このときに酸素を取り込んで二酸化炭素を出す。こうしてできたATPが他の所に運ばれると、エネルギーの元としていろいろなことに使われる。
Q2-26:ミトコンドリアが細胞に寄生する前は、生物はいなかったのですか?
→実は今でも、ミトコンドリアを持っていない生物がある。それは「原核細胞」と呼ばれているものでできた単細胞生物で、動物にも植物にも分類 されない。細菌類が代表的。これらは、普通の意味の呼吸をしない。おそらく最初の生物は今の細菌のようなものだったのだろうと考えられている。
Q2-27:たしかミドリムシって葉緑体持っているんじゃなかったっけ?なんで動くの?
→鋭い質問だ。ミドリムシは確かに葉緑体を持っているのに動く。葉緑体があるので、植物に分類されるが、動くことから動物に分類されることもある。葉緑体があるものは動く必要がないという本質からはずれる、数少ない例外だ。
Q2-35:どうして動物と植物は共通点があるの? (ぜんぜん違うように見えるのに)
→これこそ、生物というものの本質にせまることだ。すべての生物は細胞を持ち、しかもその細胞に共通点があるということが、生物の本質に関わっている。さらには� �細胞とは何なのかを研究していけば、当然共通点は何かということが問題になる。そういう目でもう一度動物細胞と植物細胞を見直してみよう。
Q2-36:葉緑体を持つ植物は自分で栄養を作れるのに、食虫植物はどうして虫をとらえて食べるんですか?
Q2-37:植物細胞は葉緑体があって自分で栄養を作れるのに、花壇とかに咲いている花や畑の植物にはなぜ肥料が必要なの?
→この二つの質問は、関係があるので、まとめて答える。「栄養」ということの意味が単純ではないからむずかしい。葉緑体で行う光合成で炭水化物を作ることができるが、タンパク質は作れない。タンパク質を作るには、窒素の化合物が必要。窒素の化合物があれば、炭水化物をタンパク質に変えることができる。そこで普通の植物は、土の中から根� �吸い上げることで窒素化合物を取り入れている。肥料が必要なのもそのためだ。ところが、土にそういう養分がないところでは、植物は困ってしまう。そこで、虫を捕まえてそのタンパク質を取り入れることで養分を補う植物ができた。だから食虫植物が育つところは、土の栄養分が極端に少ないところだ。
Q2-43:人間と植物は何で違うのか?
→こういう質問は、答に困る。人間は動物として進化したもので、栄養を自分では作れないので栄養を取るために色々なことをしなくてはならない。植物は基本的な養分を光合成で作るので動く必要がない。葉緑体を持たない動物の進化した結果として人間が生まれたとしか言いようがない。
Q2-48:核の中にある染色体って何色?※
→「染色体」という言葉は、色を染めると見� ��るという意味だ。ふだんは見えない。色を染めたとき、その染める色素によって色が決まる。よく写真で見るのは赤紫だ。
Q3-2:黒という色はどうやってできているの?/紙に印刷されている文字は一色ではないのはなぜだろう
→これは、印刷された文字を顕微鏡で見て質問しているので、印刷物の黒い色がどうやってできているのかという質問だろう。印刷物は、ほとんど赤、黄色、青色の3色のインキを重ねてすべての色を表している。だから、黒はその色が重なって印刷されているはず。文字が一色でないのも、同じ。
Q3-7:最高でどれくらいの大きさのが見れるんですか/顕微鏡は倍率がいくつまであるのかわからない
→普通の顕微鏡では、数百倍の倍率が精一杯だ。さらに高度な顕微鏡でも、光を使う顕微鏡� �は、2000倍くらいが限界だそうだ。しかし、光ではなく、電子を光のかわりに使う「電子顕微鏡」では、倍率はすごく大きい。電子顕微鏡では、100万倍くらいまで拡大できる。最新の技術を使った「走査型トンネル顕微鏡」というものでは、1000万分の1ミリメートルまで見えるそうだ。この倍率だと原子の並んでいる様子などが見られる。
Q3-11:何で人の目は顕微鏡みたいに大きくはっきりみることができないのか(便利だと思うのに)
→大きく見えると言うことは、見える範囲が狭いと言うことだ。人の目が顕微鏡みたいに大きく見えるとしたら、見える範囲はすごく小さくて、まわりが何も見えないし、どこを見ているかもわからなくなってしまうだろう。何事も、良い面と悪い面がある。実際の目は、我々� �生活するのにちょうどいいようになっている。
Q4-2:鉛筆の切片で細胞を見ましたが、そこに核のあとか何かあるのですか/何で死んでいる木に細胞があるのか
→枯れた木は、細胞1つ1つはもう死んでいるだろう。細胞の中身の核や細胞質は、乾燥してなくなっていく。しかし、細胞壁だけは固いためにそのまま残っている。鉛筆や割りばしで見た細胞は、実は細胞壁だ。
Q4-6:何で細胞って言うの
→「細」は「細かい」とか「小さい」という意味。「胞」は生き物の中で膜に包まれている部分を意味するそうだ。だから、「細胞」という「膜に包まれている小さなもの」という意味。英語では「cell」というが、それを翻訳するとき、意味を考えて言葉を作ったのだろう。
Q4-10:虫にも細胞ってあるんですか
� ��すべての生物は細胞でできている。虫ももちろん生物だから、虫の体もすべて細胞だ。
Q4-14:細胞の核は、どういう原理で染まっているのですか※
→核の中の染色体がよく染まって、それ以外は見えにくいので、核を見るのにいい、というような説明をしたと思う。染色体は、中味はDNA(デオキシリボ核酸)という物質だ。これが酢酸カーミンや酢酸オルセインという染色液とよく反応する。どうしてと言われると、そういう性質だとしか答えられない。原理を調べたが、僕の知識と資料ではわからなかった。
Q4-16:細胞は何で四角形なのですか
→割りばしや鉛筆の細胞を見てそう思ったのかな。木の細胞はびっしりと木の組織を埋めているので、どうしても四角くなってしまう。バナナの果肉や人の口の粘膜の細胞は、四角くなかっただろう。
Q4-17:酢酸カーミン液はどうしてすごいいいにおいがする� ��か
→名前の通り、酢酸につけてある薬品だ。酢酸とはお酢のこと。酢のにおいがしたはず。それを「いいにおい」と思うか「いやなにおい」と思うかは人それぞれだが。
Q4-18:何でタマネギは核が1個ずつあるのか
→すべての細胞は、核が1個ずつある。例外はない。タマネギの表皮細胞でそれを確認できたわけだ。
Q4-23:人間のフケやハナクソには細胞があるんですか
→フケは頭の表皮細胞が古くなってはがれたものだ。だから、細胞膜の名残が見えるかもしれない。(今僕自身、自分のフケを見てみたが、それらしい形が見える。)ハナクソは、鼻の穴の粘膜にこびりついたゴミの固まりだから、こちらは細胞ではできていないと思う。
Q4-24:生物全部にミトコンドリアはいるのですか
→原始的な単細 胞生物(原核生物とよぶ)は、ミトコンドリアを持たないが、それ以外のすべての生物はミトコンドリアを持っている。
Q4-25:細胞は個人差とかないの?
→「個人差」とは何なのかがむずかしい。おそらく表皮細胞は誰の表皮細胞でも見た目は同じだろうし、神経細胞は誰のものでもやはり同じに見えるだろう。でも、その表皮細胞が集まってできる顔は、人によってまったく違うわけだ。そこが謎だ。
Q4-26:何で人間と植物の細胞ってちがうのだろう
→人間と植物では、本質的に生物としてまったく違う。どのように栄養を取り入れて、子孫を増やしていくのか、人間は人間の方法があり、植物は植物の方法がある。それに適した体を作っているのだから、細胞がまったく違う形になるのは当然だ。
Q5-1:母細胞� ��ら分裂した娘細胞はやっぱり母細胞より小さいんですか
→分裂をするときは、元の細胞の半分になる。つまり娘細胞は母細胞の半分くらいの大きさだ。そうしてできた娘細胞は、栄養を取り入れて大きくなり、次の母細胞になっていく。